| |あんたって詩人なの?|TOP| | |Back|Next| |
〜第7頁〜
(ショートショートストーリー 作:森 綾香)
「よっ。」
笑顔で斉藤が顔を見せた。
「やぁ。」
いつになく明るい孝を、少々いぶかしがりながら、斉藤が奥の部屋に入っていくと。そこには、松浦がが座っていた。二人の目が合う。斉藤の顔が一瞬曇ったようである。
「彼は、同僚の松浦。そして、こっちが元同級生の斉藤。」
孝は何食わぬ顔で、二人を紹介した。
「初めまして。」
不敵な笑みを浮かべながら、松浦が左手を差し出す。
「あ、ああ。こちらこそ。」
斉藤はやや狼狽していたのか、手のひらにベットリ汗がにじみ出ていた。
「今日は・・・」
と、言いながら、斉藤がカバンからウイスキーの瓶を取り出した。そうして、彼が説明する前に、松浦がその瓶に手を伸ばす。
「へぇ、20年ものかぁ、気前いいなぁ。」
「あ、僕グラス持ってくるから。」
そう言うと、孝はいそいそと立ち上がった。孝がキッチンに消える前に二人が視線を交わしたことに、斉藤は気づいただろうか?
キッチンから孝の鼻歌が聞こえてくる。ついでに、コミカルな包丁の音も聞こえてきた。斉藤の見張りをすっかり松浦にまかせ、安心しきったのか、軽いツマミでもと余裕までかませる様になったのである。
一方、部屋に残された二人はどことなく険悪なムードが漂っている。
(藤木の奴、考えたな・・・)
斉藤がじっと松浦を見ていると、部屋の隅のカレンダーを眺めていた松浦がイキナリこちらを向いた。フイを付かれた斉藤は内心どきっとしながらも、平静を装って言った。
「あ、先客が居るとは思わなかったから。イキナリ寄って、なんだか、悪いことしちゃったかな?」
「いいって、気にしなくても。折角ボトルまで持ってきてもらってるんだし。二人より三人ってね?酒を飲むんでも人数が多い方が楽しくなる。それより、こっちこそ悪いね。今日はなんかアイツに特別な話でも?」
松浦もいい狸である。
「ああ。いや、別に大した用事じゃ・・・」
二人が腹のさぐり合いをしていると、グラスと簡単なツマミを持った孝が現れた。
「お待たせ。さぁ、じゃんじゃん飲もう。」
孝の顔から、自然と笑顔がこぼれる。
「へぇ、手製のおつまみか。悪いね、お二人さん。ご馳走にばかりなって。」
大して悪びれず、松浦が言った。明るくはしゃいでみせる二人とは対象的に、斉藤はやや口数が少ない。
「ま、まま。斉藤さん。飲んで飲んで。って、こりゃ、アナタのお酒だったか。アッハッハ!」
斉藤のグラスに酌をしながら、豪快に笑ってみせる松浦。孝も一緒に成って笑う。斉藤は引きつった笑みを浮かべながら、なみなみと注がれたウイスキーに口を付けた。
*****
そうして、2時間後。松浦という心強い味方を得、すっかり安心しきった孝は、あっという間に酒が回り、既に畳の上で大いびきを掻いている。
残るは二人、松浦と斉藤の一騎打ちである。だが、二人共かなり酒が回って来ている様子で、両者劣らず真っ赤な顔をしている。ウイスキーを一本空け切り、更に日本酒の大瓶を2本に、ビールと、次々と酒を空にしていったのである。ただ、こうして競り合って分かった事は、二人がかなり酒に強い事だった。
「・・・・ちょっと、ションベン」
斉藤が机に突っ伏しているのを確かめると、松浦はややおぼつかない足取りで、便所に向かった。便器の蓋を全部持ち上げると、チャックを下ろす。気持ちが良いほど、小便が出てくる。
「あー。」
ため息を付きながら松浦は考えた。
(あれじゃ、藤木が参るのも無理ないぜ。酒に強い上に、すすめ上手ときている。藤木のことだ、四対一割合くらいで奴に飲まされるに違いない。)
ピチョン、ピチョン。
どうやら出切ったようである。手を洗いつつも松浦は頭を捻る。
(さてと、どうやって尻尾をつかむか・・・だな。)
ようやく用を足し終えた松浦が、便所のドアを開けようとした時だった。斉藤がこっそりと玄関から出て行こうとするのが、ちらりと見えた。
「あ、おい。ちょっと待て!」
松浦が引き留めようとすると、斉藤は逃げる足を早めた。斉藤を追いかけ、靴も履かずに、道路に駆けだした松浦だったが、斉藤は偶然脇を通りかかったタクシーにあっという間に乗り込み、あっさりと逃げられてしまった。
「くそォ!逃げ足の早い奴め!!」
松浦は忌々しげに吐き捨てた。
*****
一方、まんまと逃げおおせた斉藤は一枚のMOを手に、薄暗い部屋の中で不気味な笑みをこぼした。
「藤木が下手な小細工を施したせいで、盗み出すのに少々手間取ったが、まぁいい。奴らは、データーを写し取る隙さえ与えなければ、安全だと考えたらしいが。甘いな。」
斉藤は目の前に転がる新品のMOを手に取り、盗んできた孝のMOと交換してみせた。
「こうして、すり替える事も出来るのだよ。フフフ。あまりにも単純でバレる危険性が高かったから、今まで気が進まなかったが。そろそろ連中も行動を起こして来たからな、こういった事は面倒が起きる前に手を引くのが、賢いやり方だ。クック。」
斉藤はパソコンに電源を入れると、MOを差し込む。
「デザインを流したお陰で、結構な小遣い稼ぎをさせてもらったよ。さて、藤木君、君が躍起になって守ろうとしているアイデア。見せて貰おうか。」
斉藤は指を鳴らすと、その手をキーの上にゆっくりと下ろした。