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〜第5頁〜
(ショートショートストーリー 作:森 綾香)
「よっ。寿司を持って来たぜ。」
斉藤は孝が止める間もなく、ずかずかと部屋に上がって来た。オロオロしながら斉藤について部屋に戻る。屈託のない笑顔で部屋の奥に向かう斉藤の眼光が一瞬光る。それに気づいた孝は、慌ててその視線の先を追った。
(あ!デザインが・・・)
先ほどまでデザインしていた、ラフスケッチやMOが机いっぱいに広げられている。
「あ、あ。ご、ごめん。ちょっと散らかっているね。」
少々慌てた様子で机の上を片づけて、引き出しの中に押し込んだ。斉藤は思わず舌打ちしたが、孝は気づかなかった。
(ちょっと、わざとらしかったかな?)
そう思ったが、取りあえず目の前から隠すことが出来たので、孝はほっと一安心といった所だろうか。だが、すぐに気を引き締め、斉藤をまっすぐ見つめ直す。
(まだまだ、油断は出来ないぞ。)
緊張した面もちで斉藤の顔を凝視する。しばらく、そうしたにらみ合いが続いて(無論、孝の一方的なものだが)十分が過ぎた。
「あの、寿司食べる?」
斉藤が寿司を指しながら言った。
「あ、あ。うん。」
自分でも気づかない間に斉藤をにらみつけて居たようで、慌てて視線をゆるめた。
「あの、お茶。」
「あ、あ。そうだね。入れてくる。」
斉藤の言葉に腰の軽い孝は、思わずツーカーして、席を立ってしまった。
(しまった!)
と、思った時には、もう既に遅く。立った手前、キッチンに行かざる終えなくなってしまった。
*****
台所でお茶を沸かしている時も、部屋に残して来た斉藤の事が気になって気になって、気が気ではない。イライラしながらお茶の沸くのを待っている。なかなか沸騰しないお湯に痺れを切らした孝は、台所から身を乗り出す。
「今日は何でまた?」
引き出しの方に身を乗り出していた斉藤は慌てて体を定位置に戻す。
「ん、ああ、うまい寿司があるんでな。一人で食うにはちょっ量が多すぎるってんでさ。」
何食わぬ顔をして言う斉藤。こうなってしまうと、キツネとタヌキの化かし合いである。
「恋人と分ければいいのに。」
お茶を手にして現れた孝が笑いながら言った。しかし、表面上は取り繕っていても、心中は穏やかではない。
「ん〜。あー。もう、女はいいよ。」
「気になる発言だな。選り取りみどりの斉藤君の女性観、ゼヒとも伺いたいね。」
どうやら、話は斉藤の女関係に逸れそうである。孝が内心安堵のため息をついた時だった。斉藤がおもむろにカバンをゴソゴソし始めた。
「そうそう、ついでにイイモン持って来たんだ。」
にっこり笑う斉藤。
(い・・・嫌な予感・・・・)
孝の不安は的中!斉藤はまたも酒瓶を取り出して来た。
「じゃーん、今日は日本酒。これがまた、寿司に合うんだなぁ。」
(ゲッ!)
斉藤の笑顔の裏側を知ってしまっただけに、孝は笑うに笑えない。
(ああああ、どうすりゃいいんだ!)
「悪い、コップ。」
「あ、ああ。」
泣きたい気分で孝は台所に向かった。台所から目一杯の素早さで部屋に戻ったが、斉藤の動いた形跡は無かった。
(これからが、勝負だ。絶対酔いつぶれないようにしないと・・・・・・・)
*****
(・・・・しないと・・・・・・しないと・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
「ガァァァ。ゴォォォ。ガァァァ。」
孝の必死の努力にも関わらず、すっかり酔いつぶれてしまった。斉藤の酌が巧いのである。瓶の四分の一はゆうに飲まされている。その上、孝は酒には並より弱いと来ている。もはや、救いようがない。
斉藤はカバンからカメラを取り出すと、引き出しに押し込められたスケッチを端から端まで写し取った。次にMOに手を伸ばす。小型パソコンを開くとMOを差し込んだ。
ピッ、電源が入る。
「・・・・。」
斉藤が眉をひそめた。
ロックが施されていたのである。これではパスワードを打ち込まなければ、中身を見ることが出来ない。斉藤は孝を省みた。孝は真っ赤な顔で高いびきを掻いている。
「気づかれたか・・・」
一瞬堅い表情で孝を見つめたが、すぐに口の端に歪んだ笑みを浮かべた。
「まぁいい。どうせ、奴にはどうすることもできんさ。」
気になる言葉を吐くと、暗号の解除に取りかかる。
「お人好しの藤木くん? 君の打ち込んだ暗号は、な、に、か、な?っと。」
ピーッ。ピピピピピッー。
ロックが解除された。
「ま、こんなもんだろ。生年月日ね。藤木君には悪いが、吸い取れるだけ吸い取らせてもらうよ。ククッ。」
斉藤は写し取ったMOを片手に孝を見下ろした。言葉とは裏腹に斉藤の顔は醜く歪んでいる。熟睡している孝に、毛布を掛けてやると机の上にメモを残した。
《また、目覚ましかけとくよ。 斉藤》