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「困ったお客」〜第4頁〜

(ショートショートストーリー 作:森 綾香)

孝は足早に廊下を歩いていた。
(まさか・・・・でも、だけど、アイツはオムリンの社員じゃないか・・・!)

「おい!」

背中から突然声を掛けられ、孝は驚いて振り向いた。無意識の内に表情が険しく成っていたらしい。声を掛けた同僚の方が驚いた顔をしていた。
「何だ、松浦か。」
「何だ、とは何だ。お前、ヤケに怖い顔をしていたぞ。」
不思議そうに問いかける技術部の松浦。大学以来の友人である。
「ん、ああ。」
孝は普段通りの穏和な面もちに戻り、二人は肩を並べ歩き始めた。

歩きながら、松浦が問いかける。
「どうしたんだ?お前。最近らしくないじゃないか。」
「ん・・・ああ。」
「ホント、お前がコンペに間に合わない何て異常だぞ。いや、他の連中に聞いたんだけどさ。」
孝の生返事などかまわず喋り続ける松浦。

「はは、大袈裟な。」
「どうでもいいデザインしか出来ない他の奴はいいんだ。だけど、お前は違う、我が社の期待の星だからな。」
本気かジョークか、松浦は言うことがいちいちデカイ。声もデカイ。どちらかと言えば、大人しめの孝を豪快にグイグイ引っ張ってくれる。足して2で割ると丁度良いくらいだろうか。

「おいおい、妙なプレッシャーを掛けるなよ。」
「いや、だけど、ここのデザイナーでお前を除いたら、後はクズばっかだぞ。我が社の未来はどうなる。」
松浦は本気で怒っている。良くも悪くも正義感の強い熱血漢である。
「注文が取れないと、企業全体の運営に関わるからな、ただでさえ、ここで、安働きさせられてるのに、これ以上給料が下がるのはかなわん。」
そう言ってにっと笑って見せた。ユーモアのセンスも兼ね備えて居るようである。二人は声を立てて笑った。

(コイツなら、力になってくれるかもしれない。)
横っちょでたばこを吹かし始めた、松浦を横目に見ながら孝は思った。


*****


「絶対、怪しい!そいつが黒だ!」
ダン!とテーブルを大きく叩き、松浦が立ち上がる。タダでさえ大きな声が、喫茶店内をこだました。ウエイトレスや他の客は一斉に二人の方を向く。
「シッ、声がデカイ。」
「す、済まん。」
松浦はバツが悪そうに頭を掻いたが、すぐに身を乗り出して言った。テーブルの上には没に成った孝のデザイン資料が広げられている。

「だけど、俺は限りなく黒に近いと思うぜ。どう見てもこれは盗まれてるよ。偶然なんか、そうそう何度も続かないしな。」
松浦はテーブルの上に並べられた資料をシゲシゲと眺めながら言う。
「やっぱり、そう思うか?」

「その斉藤って男。きっと、オムリンのスパイだな。証拠は無いが、臭い。ぷんぷん臭うぜ。」
そういうと、松浦は資料をテーブルの上に置いた。松浦の断言に孝は不安そうな顔をする。

「・・・どうしよう。」

「どうしよう、って。そりゃ、臭い以上、近づけない様にするしかないだろ。まず、その斉藤って男を部屋に上げない事だな。」
「だけど、彼はそれほど悪い奴じゃないんだ。手みやげ持ってきてくれたり、他にもいろいろ細かい所に気を回してくれるし。」
孝はあの目覚ましを思い出していた。普通ならそのまま居なくなって、彼は次の日、会社に遅刻をしていただろう。

「馬鹿!それがそいつの手だろ?!」
松浦は表情厳しく、孝を一喝した。孝は目を丸くして彼を見返した。

「あのなぁ・・・、藤木。」
松浦は目を細めると、やや教え諭すような口調で話し始める。

「世の中、善人ばかりじゃないんだぜ。そうやって、お前が強く突き放せないように、懐にうまーく入り込んで、お前が苦労して苦労して考え出したデザインをおいしいトコ取りしようとしてる奴が現に居るんだし。そういった斉藤の様にモラルが欠けた人間は、この世にゴマンと居る。だからこそ、お前の様にアイデア溢れる人間は、そうした奴が近づけないよう威嚇するとか。絶対に人の手の届かない所にそういった物を保管しておく必要がある。」

松浦は更に言葉を続ける。
「でないと、そういう奴らに散々おいしいとこ取りされて、望まない内に縁の下の力持ちにさせられちまうぞ。かくして、腐った連中の出世のお手伝いをさせられ、やつらはあわよくば出世して、お前は日陰の人。どうだ、考えるだけでムカっ腹が立つだろ?だけど、現実に目の前にそういうコスい奴も居るんだ。」

「ど、どうしよう。」
話の最中、ずうっと頷きながら聞いていた孝は、松浦にすがりつくような目で見つめた。

「だから、とにかく斉藤って男は今後一切お前ん家の出入りを禁止にしろ!」
「できるかな・・・」
心許ない返事である。

「するんだ!」
相も変わらず不安げな孝に、松浦はキッパリと言ってのけた。

話も一段落尽き、テーブルから立ち上がった松浦は、喫茶店の外に目をやりながら独り言の様に呟いた。
「実際、胸くそ悪ぃよな。そういう奴は。天罰が下せるもんなら、下してやりたいぜ。ま、俺もそんな、正義感の塊ってワケでもないけど、そういう卑劣な奴は許せないからな。な、経過が分かったら、知らせてくれよ。また、相談に乗るからさ。」

そう言うと松浦は笑って見せた。
孝も松浦の笑顔に少し勇気づけられた様な気がした。
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2000/05/31作成 by綾香 E-mail