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〜第3頁〜
(ショートショートストーリー 作:森 綾香)
「ヨッ!」
孝が下宿のドアを開けると、そこには斉藤修二が立っていた。
「あれ?」
「ちょっと上がってもいいか?」
そう言うと、斉藤はズカズカと部屋に上がり込んできた。孝は脱ぎ散らした洗濯物を拾い上げながら部屋へと案内する。
「今日は何でまた?」
孝が訪ねると、斉藤はイタズラっぽく笑った。
「ジャーン。今日はこれだ!」
斉藤は机を前にやや図々しくドッカと座ると、カバンの中から見覚えのある酒瓶を取り出し、机の上に豪快に置いた。
「ナ、ナポレオン!?」
驚く孝を脇に、ちょっと誇らしげに鼻を鳴らす斉藤。
「そ、20年ものだ。この間、泊めてもらったお礼だ。まぁ、郵送しても良かったんだけど、なかなか手に入らない高価なもんだろ?ちょっと俺も味見して見たくなってな。」
そう言うと、イタズラっぽく笑った。
「いや、そんな気を使わなくても良かったのに・・・」
「まぁ、まぁ、それより。グラスはあるか?」
「あ、ちょっと待って。」
孝はいそいそと台所の方に回る。
「えーっとグラス、グラス。」
一人残された斉藤は、キョロキョロと部屋を見回している。しかし、孝がツマミとグラスを手にして現れると、すぐに元の姿勢に戻った。
「わざわざ、お礼だなんて、そんな事気にしなくても良かったのに。これじゃあ、なんだか随分僕の方が得しちゃったみたいだな。」
「だから、こうして持って来たんだ。こうすれば一緒に飲めると思ってね。」
そういって斉藤はイタズラっぽく笑うと、グラスを傾ける。孝も一緒に成って笑った。
*****
「ほら、藤木、藤木、まだ残ってんぞ。」
赤い顔をした斉藤が孝のグラスに酒をつ注ごうとする。しかし、すっかり空っぽと成ってしまった瓶からはニ、三滴の滴がこぼれ落ちただけだった。
「ん〜。もう、これ以上飲めませェん。むにゃむにゃ。」
すっかり、酔いが回り泥酔してしまった、孝は寝ぼけ眼で反応する。
「こらぁ、藤木ぃ〜。起きろよぉ〜。」
「ん〜。もう、駄目ですゥ。ムニャムニャ。」
床に大の字に成って寝ころんだ孝は、その内大きな高いびきを掻きながら、すっかり寝入ってしまった。
「おおぃ。」
やがて、孝の眠りは本格的になり、揺すっても叩いても起きなくなってしまった。
「おーい。藤木?起きろ!」
さっきまで同じ様によっぱらって見えた斉藤はニヤリと不気味な笑みを浮かべ、辺りを本格的に探り始めた。やがて束に成ったMOディスクを見つけだすと、自分のカバンの中から小型のノートパソコンを取り出した。そして、次々にMOを差し込むと、本体に写し込んでいった。孝が寝返りを打ち、一瞬ヒヤリとさせられたが、全く起きる気配の無いことが分かると、斉藤は図々しくも残りのMOを全て写し取った。
*****
次の日の朝、孝はけたたましい目覚ましの音で目覚めた。
「あっれぇ?おかしいなぁ。目覚ましかけた記憶ないんだけど・・・」
二日酔いの軽い頭痛に頭を押さえながら、目覚ましを止めた孝だったが、その疑問はすぐに解けた。机の上にメモが置いてあったからである。
《おはよう。昨夜はごちそうさま。藤木が普段起きるのが何時か分からないけれど、取りあえず目覚ましを掛けておいたから 斉藤》
孝はメモを読みながら苦笑した。
「よく気の利く奴だな。」
胃薬二錠と、二日酔いの粉薬を口にコップの水で流し込むと、鏡とにらめっこした。
「ううん、昨日は飲み過ぎたなぁ・・・」
*****
翌日、再びコンペである。
孝は目の前が真っ暗に成った。孝の考えたデザインがことごとくごっそりオムリン社の掲示したデザインと酷似していたからである。これはもはや、偶然では済まされなかった。今回も、デザインの発表を辞退せざる終えなかった。
「こういった事が何度も続くと、私も君を支持しづらくなるんだがね。とにかく、がんばりたまえ。次回、君が我々の期待を裏切らない事を祈るよ。」
厳しい言葉だった。今まで自分を高く買ってくれていた専務の言葉だけに、孝の胸に重くのしかかった。
(何処からか、情報が漏れている・・・)
孝はことごとく使えなくなったデザインの資料をきつく握りしめた。
(一体、何処から・・・・・!)
唇をかみしめながら、天井を見つめる。その耳にふとこんな会話が飛び込んできた。
上役達のたわいない会話である。
「高橋部長、今度、『ライム』に一緒に飲み行きませんか?」
「おお、松本部長、あなたに誘ってもらえるとは」
「いや、実は、『ライム』でね、新しいボトルをキープしたんですよ、何だと思います?」
「さぁ?」
「実はナポレオン。ちょっと、奮発しましてね。どうですか?一緒に?」
「おお、それはゼヒご相伴に授かりたいね。」
ナポレオン・・・
「!?」
孝の脳裏にフト、ある考えがよぎった。
(いや、まさか・・・そんな・・・・)