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〜第2頁〜
(ショートショートストーリー 作:森 綾香)
僕・・・・孝は軽い朝食を取り終え、鏡の前に立った。昨夜の同窓会が思い出される。孝はかるくムースを付けた手で、丁寧に神を撫であげると、鏡に向かってニンマリと微笑んだ。そうして鏡の中に映るもう一人の自分に語りかける。
「お前はバード専属のトップデザイナーだ。自信を持て、ほら、胸を張って、顎を引いて。そうだ、なかなかいい顔してるぞ。」
朝のおなじみの儀式が終わって、孝は腕時計に目を落とした。
「わ!もう、こんな時間。」
孝は慌てて、カバンをひっかけて玄関へと向かった。だけど、すぐ思い出した様に部屋に戻ってくると、机の上に無造作に置かれた一枚のMOディスクをつかんだ。
「いけない、いけない。肝心のコイツを忘れるところだった。」
今日は朝から、新作PHSのデザインコンペである。孝は急いで靴を履くと、超特急で駅に向かった。
*****
会議室にはもう既に沢山の上役達が集まっている。孝はキョロキョロと会議室を見回すと、ようやく自分の席を見つけ、そこに向かおうとする途中で、ぽん!と背中を叩かれた。
「藤木くん。期待しとるよ。」
「は、はい。」
専務からの激励を受け、孝は内心ドキドキしながら席に着く。
いよいよ、コンペの開催である。このコンペは社内用コンペで、まず選りすぐりのデザインを社内コンペで一つ絞り。さらにそこから公開コンペに提出。他社と競争させて、勝ち残ったデザインが発注会社で商品化され、マーケティングへと出る。
「今回のデザインは恐らくオムリン社のデザイン崩しとなるだろう。これは、極秘に入手した情報ではあるが。」
パッ。スライドに映像が映される。
「オムリン社はこういった原色をベースにしたデザインできているようだ。」
孝の顔がサッと青ざめた。
「今回の新作PHSのデザインは、おおむねオムリンと決定しているが、我々がこのデザインよりも優れたものを出せば、我が社のデザインを起用してくれると言ってくれている。」
「こりゃ、オムリンに決まったかな?H社とお手てつないで仲いいもん。」
隣の同僚が僕に耳打ちしてくる。だけど、孝はそれどころではない、耳打ちしてくる同僚の言葉も、会議進行係の言葉も何一つ彼の耳に届かなかった。我が社のデザイナー達が考え抜いたデザインが次々と発表されていく。しかし、上役達の顔は芳しくない様子である。ヒソヒソ耳打ちしあっている。
「では、最後に藤木さん。デザインの説明をしてください。」
司会者の声、専務は満足げに頷いた。この会社で孝はかなりの期待を掛けられているのだ。
「おい、次、お前の番だよ。」
隣の同僚にこづかれる。
はた、と我に返った孝は室内をぐるりと見回した。周囲の期待と羨望の眼差しを痛い程に感じる。しかし、孝の取った行動は会議室の誰もが予想し得ないものだった。
「済みません!今回は辞退させて下さい!」
孝は椅子から一気に立ち上がると、痛い位に腰を折り曲げ頭を下げた。どよめく室内、渋い顔をする上役達、その中の一人が口を開く。
「それは、デザインが間に合わなかったという事かね?」
しばしの沈黙の後、孝は返事をした。
「・・・はい!申し訳ありません!!!」
孝は再び腰が痛くなるほど頭を下げると、唇をかみしめた。オムリン社の出したデザイン。それは多少の誤差はあるものの、まさしくそれは孝のデザインしたものと瓜二つだったのである。
孝が沈んだ面もちで会議室を去ろうとすると、背後から声を掛けられた。
専務である。
「どうしたんだ?君らしくないじゃないか」
「済みません!」
「いや、まぁいい。時には調子の出ないこともあるさ。まぁ、次は頑張りなさい。期待しとるからな。」
頭を勢い良く下げる孝の方を専務が叩く。
「はい!」
孝は専務の後ろ姿に深々とお辞儀した。やや、心が軽く成ったような気がした。自分のデザインとそっくりのオムリン社のデザインを思い出す。あれではまるで自分が盗作でもしたみたいではないか。
(全く、ひどい偶然もあったもんだ。)
孝は苦笑すると、ボツに成ったデザインを手に、会議室を後にした