あんたって詩人なの?TOP BackNext

「困ったお客」〜第1頁〜

(ショートショートストーリー 作:森 綾香)

7年振りの同窓会。街中のとあるバー、僕は奴と再会した。それは、斉藤修二。僕と高校時代、クラスメートだった男だ。修二はスラリとした長身の二枚目で、スポーツ、勉強、音楽、ありとあらゆる分野で飛び抜けた奴だった。教室のど真ん中でクラスの連中の話題をかっさらう彼とは対象的に、僕は教室の遠い隅でいつも奴に羨望の眼差しを向けていた。

(あいつみたいに、才能も容姿も何もかも全て兼ね備えていたなら、僕だってもっとマシな学園生活が送れるのに・・・)何て、よく心の中でボヤいていたもんだ。

だけど、7年経った今、奴と僕の立場はすっかり逆転していたのだ。修二はこんな具合に僕に声を掛けてきた。

「やぁ、藤木くん。僕だよ、覚えてるかい?」

相変わらず、クールでさわやか奴だ。
(覚えてるも何も、君は高校時代ずっと僕の羨望の的だった。)
一瞬心の中で思ったが、そんな事はおくびにも出さずに僕は言った。

「斉藤くんだろ?」
「覚えていてくれたか、そいつは嬉しいな。」
斉藤の世渡りに染まったややこびた笑い。
「何言ってんだ!君はいつもクラスの中心人物だったじゃないか。いつも教室じゃあ、君の噂ばかりだったんだぜ!」
僕はたまらなく成って言っていた。

「昔の事だよ」
斉藤は笑いながら、カクテルを飲み干す。僕は思わず食い下がる。
「学校中の女の子たちの話題をかっさらってたぜ。」
「昔のことさ。今じゃただのオジサン。しがない、サラリーマンさ。」
「君は大会社オムリンに入社したって言うじゃないか。」
「まぁ、それもただの平社員じゃあな。」
斉藤は苦笑した。

「それより、お前。スゴイ出世じゃないか。バード社のトップデザイナーだってな。凄いよ、やっぱ、一芸に秀でてる奴は凄いな。」
「いや・・・そんな大それたもんじゃ」
「ははは、謙遜するな。いや、なかなか成れるもんじゃないぞ。いや、大した出世だ。」

僕たちの周囲に昔の同窓生達が集まり、いつの間にか話題の中心は僕がかっさらってしまった。7年前では考えられなかった事だ。斉藤修二、7年前のヒーローと僕の関係がいつの間にか逆転していたのだ。僕はしばし、この心地よい羨望の波に浸かっていた。


*****


「お前わぁ、スゴイよぉぉ。ほぉぉんとにィ。オレはぁ、器用貧乏ぉぉお。ワハハハハ!」
斉藤は酷く泥酔していた。会社でうまく行っていないのか、僕は奴の腕を自分の方に回すと、奴の体を支えながら歩いた。
「もぉぉぉ、一件。ニシシ。」
「もう止せよ。」
道に明かりを落とす居酒屋に入ろうと体を捻る斉藤。そうしてソレをいさめる僕。

タクシーの窓から見える街の夜景。ガラス越しに映る、泥酔した斉藤の寝顔。これが、7年前僕のいつも羨んでいた、ヒーローの成れ果てか。僕はいささか幻滅していた。だけど、僕の心の奥に奴に対する優越感があった事も否めなかった。終電もなくなり、泥酔した斉藤から住所を聞き出す事も出来ず、僕はタクシーを自分のアパートに回した。


*****


部屋に一つしかないベッドを斉藤に占領され、僕は仕方なく床に寝ころんだ。大いびきを掻きながら斉藤は眠りこけている。僕は複雑な思いでしばらく奴の寝顔を見つめていたが、やがて深い眠りについてしまった。

次の日の朝、ベッドはもぬけの殻で、きちんとたたまれた毛布の上に小さなメモが添えられていた。

《ベッドを占領して済まなかった。また今度折りを見てお礼をしたい  斉藤》

僕はそんなメモは大して気にも止めてはなかった。だけど、このたった一つの小さな紙切れが、これから巻き起こる事件の引き金と成ろうとは・・・
あんたって詩人なの?TOP BackNext


2000/05/31 作成 by綾香 E-mail