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〜第3章〜
(ショートショートストーリー 作:森 綾香)
ここは行きつけの飲み屋。
翔太がイヤなことがあった時、いつも飲みにくる居酒屋だ。
そう、翔太はバイト先で、山根の突飛な夢を鼻で笑ってこそいたものの。実際、自分と同じ年頃の若者たちが、ああも前向きな姿勢でいるのを目の当たりにさせられると、やはり焦りが生じてしまうのだ。自分ひとりだけ、なんだかすっかり置いてきぼりにされたような気がして、ついつい、いたたまれなくなってしまう。
酒をあおりながらぼやく翔太。
「夢、夢ってよー!そんなに昼間に見る夢の方がえらいのかっつーの!山根の奴、ギター野郎にすっかり感化されやがってよー・・・んな簡単にプロになれてたまるかってーの!なぁ!ヨっちゃん!」
そう飲み屋の看板娘に半がらみする。
「なんか翔ちゃん、今日は荒れてるねー。」
と、飲み屋の大将が苦笑い。翔太はむっとした顔で口を尖らせる。
「大将は酒だけついでればいいの!俺はヨっちゃんに話してんだから!」
「へいへい!」
大将はやはり苦笑いしながら、やや乱暴に差し出された翔太のコップに酒を注ぐ。
「なぁ!ヨっちゃん!枕抱いてみる夢だってよー立派な夢だよなぁ!」
翔太はヨッちゃんにしつこく絡む。自分に賛同して欲しいのだ。
「んーどうかなぁ?」
ヨっちゃんと呼ばれる店の看板娘は、ぐつぐつ煮える小なべをお玉でかき混ぜながら言った。
「でも、私もちょっと憧れちゃうかも?かっこよくない?やっぱり、夢を追う男の人の背中って素敵だなぁ〜!」
そんな事を言い出すヨッちゃんの笑顔を見ながら、捨てられた子犬のように、くしゃっと情けない顔になる翔太。
「なんだよーぅ!ヨっちゃんまで、そんなこと言い出すのかよーぅ!」
カウンターに寝そべりながら、翔太は子供のようにだだをこね始める。すっかり悪酔いしてしまったようである。
ヨッちゃんは苦笑いしながら、やがて真顔で語りだす。
「でも・・・やっぱり、簡単じゃないって思うけどね。プロになるのは厳しいだろうし、売れるのだって難しいだろうし。ずうっと売れ続けるのなんて、もっと難しいだろうし。やっぱり、ずうっと輝き続けていられるのって、ほんの一握りの人間だけだって思う・・・」
しんみりとしたヨッちゃんの言葉に、不自然に目を輝かせ、俄然、元気を取り戻す翔太。
「でしょ!でしょ!だから、逆に俺は、追うね!枕を抱えながらの夢を追うね!毎日毎日楽しい夢を見ちゃうもんね!それが果ては、俺の生きがいとなり、毎日働く元気となり、毎日笑顔で暮らせるのでーす!」
「えー!」
苦笑いするマスターとヨッちゃんを尻目に翔太はイタズラっぽく笑う。
「山根と例のギター野郎が、夢を実現できずに、もがいてもがいてもがいてるあいだに、俺は枕片手に、あっさり幸せを手にいれちゃうもんねー!ふふん!」
そういって、一気にコップの酒を飲み干しいきなり突っ伏して大いびきをかきながら爆睡しはじめる翔太。
「もーう!翔太さんったら!」
顔を見合わせ困ったように苦笑いするヨッちゃんと大将。