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〜第2章〜
(ショートショートストーリー 作:森 綾香)
翔太は山根の言葉をすっかり真に受け、その日以来、率先して眠るようになった。安眠グッズと聞くと、バイト代をはたいて買い。こじんまりとしたボロアパートに不釣合いな、高価な羽毛布団も完備した。ふかふかの布団で眠り見る夢は、それはそれは甘美で、翔太は暇さえあれば、布団にもぐりこむようになった。
眠りに関する文献も研究した。アロマだの癒し音楽だの、果ては枕元にブロマイドを敷けば芸能人の夢を見れるだとか、そんな迷信ですら実行し始めるようになった。もはや、夢を見ることは、翔太の大きな趣味のひとつとなっていた。
また、夢を見ることを意識すると、目覚めの後、夢を覚えている確率もぐっと高くなった。そうして、最初はちぐはぐにしか見れなかった夢も、次第に集約して、より翔太好みの夢を見られるようになった。
そう!冒頭に出てきた夢のような男の夢である。夢の中での翔太は次々と仕事をこなし、みるみる出世を果たしていく。そうして、ついには、翔太は夢の中で、異例の時期社長大抜擢とまでほめそやされる程にまでなった。愛人の数はネズミ算式に膨れ上がり、すれ違う女のハートはすべて翔太の笑顔に射抜かれてしまう。夢の物語は一大スペクタルをようしてきた。
翔太は、逐一そんな夢の経過をバイト仲間の山根に話していた。また、そうした翔太の夢の話を、ずっと面白がって聞いていた山根だったが。しかし、ある日を境に、彼の反応はガラリと一転してしまう。それまでとは打って変わっての、山根の気のない返事。そうして、あっさり切り替わる話題。「あれ?」と肩透かしを食らう翔太に、山根はこんな話題を切り出してきた。
「それよりさ、お前知ってる?あの、最近入ったバイト。」
「ああ、一回だけバイトでかぶったことある。」
「俺、あいつなんか暗げな奴だって思ってたんだけどさー。話してみると、すげぇの!なーんとー・・・」
やや興奮気味の山根は、テンパった声で言葉をつづける。
「なんと!どっかのデカイ、アマチュアバンドコンテストで準優勝した経験あるってよ!ギターだって、かっこよくねー?まじで、目指してるらしいよ!プロ!!下手すりゃ!俺らのコンビニから、すげぇ大物ミュージシャンが出てくるかも。俺、今のうちにサインもらっちゃおうかなー!あの一見した暗さってのは、実は内面のハードボイルドさがにじみ出てるって奴なんだなーきっと。ハングリー精神っていうか!」
山根は興奮しながら一気にまくし立てたのち、うっとりしながら感嘆のため息をついた。
「へーそうなんだ・・」
微妙な表情で相槌を打つ翔太。その翔太の肩をぽんぽん!と山根がたたく。そうしてこんなことを言い出した。苦笑いするような、どこか見下した様な、いやぁな笑顔である。
「お前もさぁ、寝て見る夢ばっか見てないでさ、もっと現実問題頑張ろうよ!」
「・・・・」
翔太からすれば、「はぁ?なぁに言ってんだか?」という感じである。あんだけ、自分の夢の話で散々っぱら盛り上がっていた山根はあっさりと、新顔のバイトに乗り換えてしまった。翔太としては実に面白くない。しかしそんな翔太の反応などお構いなしに一人で勝手に盛り上がる山根。更に、調子に乗ってこんなことまで言い出した。
「あーあ!俺もなんか、できることないかなー・・・」
そうしてしばらく考え込んだのち、山根は何かをひらめいたような顔で翔太を見た。
「・・・あ、そだ、俺、前からお笑い好きなんだよね?それに、俺の話って、結構コンパで女の子にウケてるみたいだし、ひょっとしていけるかも?未来の爆笑問題〜!!!」
マジ顔である。
「はは!」
あまりのとっぴさに、思わず鼻で笑ってしまう翔太。
「あ、やっぱ、お前もそう思う?なんなら俺と組む?組む?どうせならコンビの方がやりやすそうだし。」
翔太の肩になれなれしく腕を回す山根。それを軽く押しのけながら翔太は言う。
「・・・いや、俺、あんまお笑い好きじゃないし・・」
「そか、まぁな、俺とお前じゃ、どっちも背がそこそこあるし、でこぼこコンビにならないから、ちょっとインパクトに欠けるかもな?じゃあ・・・もっとチビな奴探さないとなー。チビな奴、チビな奴・・・知り合いにいたっけか?俺が170半ばだから、150くらいがいいよなー・・・うぉぉっしゃ!なんか燃えてきたぜー!!」
空気の全く読めない男である。すっかり、自分の世界に入り込んでいる山根をみて思わず苦笑いする翔太。
(あほかっつーの・・・んな簡単に売れっ子芸人になれたらセワないってぇの!)