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〜第9頁〜
(ショートショートストーリー 作:森 綾香)
「でもさぁ、藤木。つくづく、お前は優しいよ。」
松浦はたばこを吹かしながらしみじみ言う。
「俺だったら、ウイルスくらい仕掛けちゃうけどなぁ。ファイルを開けた途端に、奴のPC内のデーターを全部破壊するウイルスだとかさぁ。人畜無害な可愛い熊さんだけだとはね。」
「まぁ、懲りれば良いんだしね。」
「仏の藤木さまさまだね。」
そう言うと、松浦はプカァと煙を吐き出した。
*****
「ふっ。これで最後か。」
ピーピピピピーッ。
「フフフ、ハハハ、ついにやったぜ、藤木の馬鹿め、何重にもロックをしてれば、俺が諦めると思ったか。世の中、知恵の回る奴が最後に勝のさ。」
斉藤が最後のボタンをクリックすると、画面がぱっと変わる。
「さぁ、拝ませてもらおうじゃないか、お前の必死に成って守っているデザインをな!」
パッ!
テクテクテク。画面に可愛いテディ・ベアが現れる。
「何だ?これは、今回はMDプレイヤーのデザインじゃ無かったのか?」
斉藤が言い終えない内に、可愛いベアたちがプラカードを持って、次々と現れる。ベアの持ったプラカードには一つずつ目一杯に大きな文字が書かれており、斉藤は出てくる順に声に出して読み上げた。
「なになに?ご・く・ろ・う・さ・ま」
声に出して読んでみて、斉藤はようやく気が付いた。
「クソ!ナメやがって。」
斉藤は吐き出すように言うと、足下のゴミ箱を思いっきり蹴った。
(チッ、まぁいい、次のカモを見つけるか。この程度で仕返ししたつもりだなんて、甘ぇよ、藤木。お前はよくよく、甘ちゃんだぜ。)
そう心の中で、自らを納得させつつも、孝の思わぬ反撃に、怒りを駆り立てられるのか、爪をガリガリと噛んでいた。
*****
次の日。
「ごめん、俺、実は、もうちょっとイタズラしちゃったんだよねぇ。」
会社の廊下で孝に向かって松浦がばつが悪そうに言う。
「え?」
「いや、だってさ〜。なぁ?」
そう言って頭を掻く松浦。
*****
「それじゃあ、斉藤君。早速、君の企画を見せてもらおうか。」
ここは、オムリン本社の会議室。今日は企画発表の日。先日思わぬ孝の逆襲を受けたばかりの斉藤はやや機嫌が悪く、苦汁をかみしめた様な顔をしていた。
(ちっ・・・藤木の奴が余計な事をしてくれたお陰で、こないだのデザインコンペには間に合わなかった。アイツのデザインは高く売れたのに。小遣い稼ぎの為にも、また、次のカモを探さなくちゃあな。)
懲りない男である。
しかし、やがて気を取り直した様に、若いOLに向かって指示を出す。
「それじゃあ、君、渡しておいたフロッピーから、プリントアウトした書類をみんなにお配りして。」
「はい。」
そのOLは返事をして、言われた通りコピーをしてきた書類をみんなに配り始める。その様子を確認しながら、襟を正す斉藤。そこは極悪とはいえプロである、斉藤は仕事と私生活を混同しない。
「これから新しい企画の書類を皆さんの手元にお配りしますので、目を通して見て下さい。」
(しかし、やっぱり、藤木の奴はオレがにらんだ通り、バカなお人好しだ。オレを、犯罪者として表に突き出すことだって可能なのに、あの程度の仕返しで満足するとはな。ふふふ。これだから、オレは気の弱い奴が大好きなんだよ。カモとしちゃ最適だ。)
そう頭の中でまたもあくどいことを考えながら、斉藤は書類がみんなに行き届いたのを確認すると、張りのある声で言った。
「今回の企画ですが!21世紀を担う若者達の」
*****
再びバード社。廊下脇の自販のスイッチを押す孝。取り出し口の紙コップに音をたてクラッシュアイスが入れ込まれた後、勢いよくコーラーが注入される。松浦の方は先にコーヒーを購入し、既に紙コップに口をつけている。
「アイツが、例のMOを入れて、パスワードを全部解読したと同時に
とあるプログラムがこっそり起動して、奴が自分のパソコンからデーターをフロッピーやMOに落とすたんびに、全部、ファイルが斉藤の悪事を暴く『斉藤極悪日記』にすり替わっちゃう様にしちゃったんだ。」
「松浦・・・」
ビックリした顔で友人を振り返る孝。
*****
「『僕はライバルのバード社のデザイナー藤木孝君のデザインを盗んでいつも、オムリン社、その他のデザイナーに売りつけて小遣い稼ぎをしています。手口としては・・・』斉藤君!な、何だね、これは・・・・・!?」
再びオムリン本社。手元に渡された資料に目を通すと同時に、一人の上役が驚いたように口を開いた。他の社員達も次々と資料に目を通し、オムリンの会議室全体がどよめき始める。斉藤は慌てて、手元の資料をつかみ取り、ざっと目を通す。そうして、その内容を知り、愕然としてしまう。斉藤の額にドッと汗が吹き出てきた。
「あ・・・違うんです。違うんです。これは誰かの陰謀です。」
うろたえながら、上役達に必死にすがりつく斉藤。それを遮るかのように社長の重厚な一声。
「これが事実なら、我が社の存亡にも関わる。」
みんなが冷ややかな一別を斉藤に下して、次々会議室を後にして行く。後に残されたのは、斉藤の直属の上司と、オムリン社の社長、そして、斉藤本人だけだ。
しずかな、だか重みのある口調で社長が言う。
「さて、君の言い分とやらを聞かせてもらおうか。斉藤君。」
*****
飲み終えた紙コップをくしゃっと丸め、ゴミ箱を放り込むと、松浦は孝に向かってにっと笑った。
「だって、最後に笑うのは善良な市民だろ?」